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『楽しい夜』 岸本佐知子編訳 (講談社)
評価:
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初出「群像」「新潮」。翻訳者としてトップブランドと言って過言ではない岸本佐知子さん自らがセレクトし翻訳した贅沢な短編集で、国内作品では味わえない読後感が味わえる作品集であると感じる。11編から構成され、バラエティに富んだ内容が特徴であるが、最も有名だと思われるミランダ・ジュライの作品が切なくて飛びぬけて心に残るものであったことが特筆できる。

これは初出が唯一、「新潮」からということで翻訳権がからんでそうですがやはり貫禄の作品だと感じました。飛行機で大スターの隣に乗り合わせてもらった電話番号の紙切れが切なく主人公の人生を変えていきます
もっとも他の編も冒頭の「ノース・オブ」にボブ・ディランもどき(?)が出てきたり、奇想天外で突飛なものや国内作品で同内容では受け入れられない内容のものまであって、読者としては次はどんなのが来るのかとワクワクしながら読めるというのはやはり読書の醍醐味なのでしょう。
そこにはやはり岸本訳という安心感というものが読者の念頭にあり、やはりテンポの良さが読書リズムに合っているように感じます。

ジュライの作品以外では感動度では他の作品群には落ちるものの、ぶったまげた発想が素晴らしい「アリの巣」と「亡骸スモーカー」が余韻が残る。どちらもアリッサ・ナッティングという若手作家が書いたものでこの作者覚えておきたいと思っています。
岸本さんもただ一人だけ2作品選ばれているのでそれなりに推しているのでしょう。

全体を通して、どちらかと言えばアメリカという国を象徴しているのか、穏やかな中にも自由奔放な展開が楽しい作品集であると感じます。国内作品の間に挟んで息抜き(というか頭の体操)には格好の一冊だと感じます。

評価8点。
posted by: トラキチ | 岸本佐知子翻訳本 | 10:22 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『西洋菓子店 プティ・フール』 千早茜 (文藝春秋)
初出「オール讀物」。西洋菓子店を舞台とした6編からなる連作短編集であるが、舞台は甘さが漂っているのに内容がビターであるところが特徴だと言える。
最初と最後が主人公格である亜樹が語り手となっているが、残りの4編は語り手が代っており、概ね亜樹を取り巻く婚約者である弁護士である祐介と亜樹の後輩である澄孝との三角関係を中心に読んでいくと面白いと感じる。
子供時代のトラウマが原因で尖ったというか可愛げのない女の子として描かれている亜樹ですが、手厳しく描かれている様が千早作品のお決まり事のようにも感じられる。読者に対して生きることに対してもがき苦しんでいる姿を敢えて描写しているかのごとく。

個人的には澄孝を追いかけているミカという女の子の章がもっとも意地らしくて印象的で、亜樹に対してはあまり共感できなかったけれど、客観的に見ると人生そんなに楽しいことばかりではないけれど、自分の人生に向き合って生きていく真摯な姿が祐介や澄孝にとって魅力的なのでしょう。
年齢を重ねるにつれ、亜樹はお爺さんにより似た存在に成長しそうですね。今までは不器用だけだったのかもしれません。澄孝やミカの将来の姿も読んでみたい気がする、続編希望。

若手女性作家では個人的には畑野智美さん、千早茜さん、彩瀬まるさんの作品は出来ればコンプリートしていきたいと思っていて、少し作風は違うところが却って新鮮であります。軽い順から畑野→千早→彩瀬ということなのでしょう。読みわけが楽しいです。書き忘れましたが、本作は空腹時に読むと無性にスイーツが欲しくなります、悪しからず。

評価8点。
posted by: トラキチ | 千早茜 | 09:31 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『たそがれどきに見つけたもの』 朝倉かすみ (講談社)
初出「小説現代」。アラフィフ世代を人生のたそがれ時とみなし、彼らの模索する人生を時にシリアスに時にユーモラスに描いた6編からなる短編集で、作者の特徴であるテンポの良い文章は健在です。
表題作にて人生を80年とし4で割った20年を区切りとし四季にたとえ50だと秋の真ん中であるといういきなりの言葉にドキッとさせられた読者も多いと思いますが、さすが色んな経験を経た作者ですから、シリアスに終始せずに年齢を経ながらも未だに青春真っただ中のような登場人物が表れ、ホッと胸を撫で下ろせるところが朝倉作品を手に取る醍醐味だと言えるのでしょう。

とりわけ滑稽だったのはフリーアナウンサーのバスツアーに参加する「王子と温泉」とラストの男性が主人公で4年前にチラシをもらった居酒屋に初めて行った「さようなら、妻」あたりが面白かった。ほとんどの編に共通しているのは過去の武勇伝に拘ったり、あるいは勘違いが甚だしい人物たちが滑稽であるところ。じーんとくる話ではありませんが、人生を謳歌することの大切さを教えてくれているようでホッとした気持ちで心地よく本を閉じれるのは作者のさりげなくではあるけれど、突出した部分であると感じます。作者の未読の短編集、また手に取りたいですね。

評価8点。
posted by: トラキチ | 朝倉かすみ | 10:28 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『僕の名はアラム』 ウイリアム・サローヤン (新潮文庫)
評価:
ウィリアム サローヤン
新潮社
¥ 562
(2016-03-27)

原題“My Name Is Aram"柴田元幸訳。新潮社の画期的と言って良いであろう試みである村上柴田翻訳堂シリーズの第一弾。このような作品を手にとると、シリーズの意図している通り忘れかけられている名作が蘇って読者の胸に届き、幸せな気分に浸れる。それはやはり訳者の柴田氏の米文学に対する深い見識に基づく愛情が読者に伝わるからであろう。全10冊の内、6冊は復刊であるが柴田氏や村上氏がどのようなあとがきを添えてくれるのか、本文を読む楽しみが倍増されるのが目に見えて幸せな読書ライフを満喫できるのである。

さて本作、柴田氏が学部生の頃から愛読されていたという作品であるが、上梓されたのが1940年ということで真珠湾攻撃の1年前にあたる。アラムというのは作者の分身のような存在なのでしょうが、実際は苦しいことも多かったのでしょうが、かなりのほほんとしているようでも強心臓の少年として描かれている。彼をとりまく叔父さんたちがなんともユニークかつ滑稽で、これは本作品集の象徴的な部分で読者に大きなインパクトをもたらせていることは間違いのないところである。彼ら全体(アラムも含めてアルメニアから渡ってきた人たち)が家族のようであり各編を読み進めていくうちに彼らの悲哀めいたものにじーんと来ます。

それは前述した叔父さんたちがあまりに頼りなさげなのが大きな要因となっていると思われるのですが、彼らがアラムの成長を心から願っているであろうところが垣間見れるのがやはりこの作品を読む醍醐味だと言えそうですね。とにかくアラムが愛おしいのです。

評価8点。
posted by: トラキチ | 柴田元幸翻訳本 | 02:32 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『橋を渡る』 吉田修一 (文藝春秋)
評価:
吉田 修一
文藝春秋
¥ 1,944
(2016-03-19)

初出「週刊文春」加筆訂正有。大胆な構成の意欲作を‎次々と上梓している作者であるが本作はその中でも最も挑戦的な作品であると思える。作中の言葉を引用すれば“ルールも知らないのに、「さぁ、ゲームを始めろ」と言われているような東京という町”という形容が一読者として私にとってもしっくりと来た言葉であったのですが、この言葉とタイトル名の橋を渡るという言葉を念頭に置いて四章からなる群像劇を読むと読者の未来にとって有益なものをもたらすことは作者の思惑どおりだと感じる。

少し内容に触れると四章からなる本作、春・夏・秋は現代(2014年)そして冬はなんと70年後の未来が描かれている。もっとも特徴的なのはやはり時事問題を扱っているところであろう。描かれているのは不倫・不正・裏切りなど。どこにでもいる身近な登場人物たち(明良・篤子・謙一郎)、これは初出が週刊誌というところが大きいのであろうが、連載時に読まれた方はそれぞれの章の登場人物たちと自分を照らし合わせ、自分だったらどんな選択をしたかという正義感を持った登場人物たちに常に葛藤して読むことを強いられる。
時には息苦しいのであるがそこが心地よくも感じられる切迫感が吉田作品の魅力であると感じる。

そして最終章での未来での展開が、正直言って評価の分かれるところでもあるのだろうが、作者は危機感をもって生きることの大切さと将来を見据えての生きるべきだという願いを込めて書かれていると感じる。これは作中の「サイン」という身分の人造人間の登場が最も象徴的であって、作者の凄いところは、吉田修一が描けば本当にそうなりそうな気にさせる現実感があるところである。

一見平和に見える現代社会であるけれど、様々な問題を抱えているのも事実、目を背けてはいけないということを示唆している問題作であるが、日々の積み重ねが自分たちの子孫の平和に繋がるということだと思われます。機会があればもう一度読みたい一冊であります。

評価8点。
posted by: トラキチ | 吉田修一 | 04:49 | comments(0) | trackbacks(0) |-