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『幻影の書』 ポール・オースター (新潮文庫)
評価:
ポール オースター
新潮社
¥ 767
(2011-09-28)

原題"The Book Of Illusions"、柴田元幸訳。オースターの魅力が満載された傑作だと言える。何冊かオースター作品を読んでいる読者がいれば、各々が描くオースターの作品像というのが出来上がっているであろうけれど、本作を読むと描かれていたオースター像を超越する内容であることに気づくはずである。

それはやはり訳者の柴田氏が解説で語っている通り、作者の敬愛する映画(映画人と言った方が適切だろうか)に関連する極上の作品であるからである。物語内物語はオースターの十八番であり、本作の次の作品にあたる『オラクル・ナイト』ではより精緻な展開が見られるのであるけれど、本作で描かれている内容は読者にとってもエンタメ性に溢れ、捲るページが止まらない状況にあります。その一因として語り手であるディヴィッドの飛行機事故で妻子を亡くしたという境遇に対する同情感というのが当てはまると思われます。

作中でその飛行機嫌いである彼を飛行機に乗せてヘクター・マンに会いに行く過程の描写、そしてヘクター・マンの波乱万丈な人生の描写、そしてヘクター・マンが監督した「マーティン・フロストの内なる生」の描写。どれもが完璧な柴田氏の訳文に吸い付かれていくような読書体験を余儀なくさせられます。
作者は人生の儚さを嘆きつつも、その美しさをそこはかとなく読者に提供してくれています。生きる希望を失っていたディヴィッドがある喜劇俳優(ヘクター・マン)を知り、彼の無声映画に夢中になることにより生きる希望を取り戻します。本作ではヘクター・マンがいかに魅力的な人物であったかを描くことによって、初めはたかが無声映画だと思っていた読者が、ディヴィッドが必然性をもって無声映画に没頭したということを知らしめられます。

そしてもう亡き妻以外の人を愛せないと思われていた語り手が凄く魅力的な人物(アルマ)に遭遇します。それは偶然のようであって必然であったのでしょう。多くのものが消失しますが、ディヴィッドが再生されたのはアルマのおかげであり、そこに愛があったと信じたいです。作者のストーリーテラーぶりが如何なく発揮された本作、物悲しいけれど幸せな気分に包まれる作品であります。

評価9点。
posted by: トラキチ | 柴田元幸翻訳本 | 23:13 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『峠越え』 伊東潤 (講談社文庫)
中山義秀賞受賞作。徳川家康を主人公とした4章からなる作品集でラストではタイトル名ともなっている最大の危機とも言える伊賀峠越えが待ち受けています。
何はともあれ小気味よい文章には感服せざるをえません。あまり歴史小説には縁がなかったのですが説教臭くなくすんなりと入って行けます。
家康と言えば欠点がなくてとっつきにくいイメージがあったのですが、作者は慎重さを踏まえつつも人間臭く描くことに成功しています。

本作の大きな特徴とも言える、回想シーンの多用が読者と家康との距離感を縮めているように感じます。彼が信長を絶えず恐れているところはリアルで、逆に虎視眈々という感覚はありませんでした。
逆に本多忠勝をはじめとする個性的な家臣たちの活躍があってこその天下取りであったと強く感じました。クライマックスは斬新な解釈で描かれる本能寺の変とその時に堺にいた家康の峠越えですが、そこに至るまでの桶狭間、長篠など有名な合戦でいかに雪斎の教えを忠実に守っていたかがキーポイントとなっているのでしょう。

やはり彼の忍耐強さは幼少期の人質時代の経験の賜物だと言えるのかなと感じます。いずれにしても信長を恐れるがゆえに嫡男や妻を死にいたらしめざるをえなかったこの時代、忠実に生きることを貫いた家康にはリスペクトすべき点は多いと感じました。
作者の歴史小説は初めて読ませていただきましたが、背中を押してくれる何かを強く感じます。戦国時代の作品を中心に他の作品も読み進めたいと思っています。

評価9点。
posted by: トラキチ | 伊東潤 | 17:04 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『あきない世傳金と銀 早瀬篇』 高田郁 (ハルキ文庫)
あきないシリーズ第2弾。今回は14歳から17歳までの幸の成長が描かれていますが正に怒涛の展開という言葉が当てはまりそうです。幸は運命を受け入れて、当主である不出来な徳兵衛と結婚しますが頼りにしていた番頭の治兵衛が半身不随となり、幸にとっては先行きに不安が広がります。

今回は月のものが来ていない幸を相手にしない徳兵衛に少しホッとしつつも、彼がますます馬鹿さ加減を増幅してゆく姿には呆れ返りますがラストでの彼の突然の死には驚かされた読者が大半であると思われます。あとは幸が少しずつですが五鈴屋の商売について知識を得て行き、冷酷であるけれども商才がある次男の惣次の人となりが少しずつわかってきます。

分家すると思われていた惣次が、ラストで後継ぎとなる条件をお家さんに告げるのですがそれがなんと幸を嫁に迎えたいということです。これは兄よりはマシだとは言え、窮地に追い込まれた五鈴屋には先に色んな試練が待ち受けているのは火を見るよりも明らかであり、幸にとってはいろんな試練が待ち受けていることでしょうが、その試練を乗り越えてゆく様がこのシリーズの醍醐味であることも読者も作者もわかっています。

今回、印象的なシーンはやはり合ってなかった母と妹との再会でしょうか。あとは三男の智蔵との再会や終盤での治平衛の息子である賢吉が五鈴屋に奉公に上がりますが、彼らが今後の物語のキーパーソンとなって来そうです。いずれにしても、幸の成長が体感できるところが本シリーズを読む喜びであり、ふと自分の娘のように見守っている読者も多いのではないでしょうか。それにしても読者の予想を超える展開が繰り広げられ、作者の筆力には舌を巻きます。次巻の発売を心待ちにしたいと思っています。

評価9点。
posted by: トラキチ | 高田郁 | 07:05 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『夢を売る男』 百田尚樹 (幻冬舎文庫)
自費出版を主な商いとする中小出版社である丸栄社を舞台とした業界の暗部を抉る長編。まるで東野氏の黒東野ジャンルの作品のようですが、東野氏の作品は皮肉や風刺的意味合いが漂っていますが、本作は業界への問題提起というか暴露本的な要素が強いと感じます。

読者サイドからして、たくさん本を読んでいる人ほど出版界の実情を知ることができ、それが良かったのかどうか考えさせられ、単なるエンタメ作品として割り切って読めていないようにも感じられます。
何はともあれ編集部長の牛河原のキャラが絶大で、まるで作者の移り変わりのようにも感じられ、後半から出てくるライバル社の台頭への対処も含めて苦難を乗り越えてゆきます。

人の弱みにつけこんだ詐欺まがいのことをしているライバル社と丸栄社との差はほとんどないのではないかという気持ちを持ちながら読み進めていきますが、ラストの人間味ある温かい落とし処に少しホッとしたのも事実でもあります。
本作を読んで、やはり作家や出版社そして書店という稼業の大変さは痛感されたかたも多いと思われます。たとえ文庫本一冊でも多く購入して、数十年後にも小説が今以上に衰退することなく提供されることを願ってやみません。

評価8点。
posted by: トラキチ | 百田尚樹 | 12:52 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『あきない世傳金と銀 源流篇』 高田郁 (ハルキ文庫)
ファンの期待を裏切らないクオリティの高い作品を輩出している作者の新シリーズ。舞台が大阪で同じなのだけれど、今回はあきないの世界を体験します。
何といっても主人公の幸の好感度抜群のキャラが良い。物語の冒頭では9歳で本篇では14歳までを演じます。利発で健気な彼女は、摂津の国の津門村に学者の家に生まれるのですが家の事情で
9歳で大坂天満の呉服商に奉公に出されます。五鈴屋に奉公されてからは周りの人たちに影響を受けつつも、持ち前の芯の強さと番頭役の治兵衛に商才を見抜かれて少しずつ成長してゆく姿が描かれています。

読ませどころは五鈴屋の3兄弟の個性豊かぶりな存在が、幸の今後の人生にどう影響をもたらせるかだと感じます。おそらく一筋縄ではいかない展開が待ち受けているのは作者の力量からして間違いのないところだと思われます。
本篇でも船場から長男の嫁に来て、幸のお姉さん的な存在として居座ると感じていた菊栄が離縁して戻りましたがかなりのサプライズでした。
家を出た三男の智蔵と幸とが幸せになれればという淡い期待を抱きながら第2巻、そしてそのあとを楽しみに待ちたいと思います。

評価9点。
posted by: トラキチ | 高田郁 | 12:40 | comments(0) | trackbacks(0) |-