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『ぼくたちの家族』 早見和真 (幻冬舎文庫)2016.12.20 Tuesday
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若菜家はほぼ破産状態に近いのですが、母親の病気がきっかけで息子2人と父親が力を合わせて立ち向かってゆきます。著者の実話に基づいた話みたいで、長男と次男の対照的な性格が印象的で思わず作者はどちらに似ているのだろうと考えてしまいましたが、父親が息子たちによって再生してゆく姿が一男性読者としては最も印象的であったとも言える。
結局一命はとりとめたものの、そんなに長く生きられなかった玲子であるが、世間一般的に富は得られなかったものの立派な子供二人を世に授けたという点では幸せだったのであろうと強く感じるし、著者の母親に対する愛情が滲み出た一冊であることが強く伝わったことは書き留めておきたい。なお本作は妻夫木聡主演で映画化もされており原作にほぼ忠実に描かれている。
評価8点
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『すみなれたからだで』 窪美澄 (河出書房新社)2016.12.06 Tuesday
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全8編からなりますが、とりわけ後半の比較的長めの4編は読みごたえがあって読者に心の内に迫ってきます。特に印象的なのは義父との凄まじい性愛を描いた「バイタルサイン」、これは窪さんのお手の物的な内容ですよね。続く「銀紙色のアンタレス」は一転して年上の女性に対する純粋な高校生の気持ちが初々しく描かれています。
そして圧巻は「朧月夜のスーヴェニア」、戦時中に許婚がいながら他の男性を想う恋の回想、反戦的な意味合いも込めてインパクトの大きい作品です。ラストの「猫と春」は拾った猫と同棲中の男女との関係が綴られていますが物悲しさが漂ったエンディングが印象的です。
全体を通して作者が他作でも貫かれている生と性が如何なく描かれています。決して積極的な人生を歩んではいないけれどどこか共感してしまう、これが窪ワールドのような気がします。
評価8点
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『フラダン』 古内一絵 (小峰書店)2016.12.01 Thursday
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爽やかさと身に沁みる厳しさを併せ持った作品内容で、作者も含めて中高生にこのような作品を読ませればやはり悩んでいるのは俺(私)だけじゃないということ請け合いの内容です。
物語は震災から5年後の福島の工業高校が舞台でタイトルからも想像がつくように女子ばかりのフラダンス同好会に男子が誘われるところから始まります。
強引に男子を誘う詩織が実は繊細な心の持ち主であるところがチャーミングに感じます。あとはやはり震災の当事者としての微妙な気持ちが滲み出ているところが締め付けられます。当事者にしかわからないことがありますよね、特に原発で働いている人の描写にはハッとさせられます。地元の人たちは簡単に過去のことに片付けられません。
ただ青春真っ只中の彼らにはエネルギーがあります、そうフラダン甲子園目指して彼らは頑張ります。キャラ立ちもしっかりとしていて主人公の穣とイケメンの宙彦との名コンビの掛け合いも楽しく、フラダンスを通して成長してゆく姿が微笑ましくいつもでも読者の脳裡に焼き付いて本を閉じることを余儀なくされます。映像化希望。「
評価8点。
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『罪のあとさき』 畑野智美 (双葉社)2016.12.01 Thursday
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ポイントとなっているのは卯月の中学時代の家庭環境と楓の前の恋人との間の傷心の事件でしょう。中学時代からの楓への卯月の気持ちは楓にとって全然知らなかったみたいですが、少なくとも楓にとっては卯月と再会することによって自分自身が再生する大きなきっかけとなりました。本作を手に取られるのは圧倒的に女性が多いと察せれますが、その内の大部分の読者が過去の事件を乗り越えて卯月に対して好意を持つことだと思います。作者の人柄が滲み出るような見事な物語の着地点にうっとり、読み終えて本を閉じ表紙を見るとジーンとこみ上げてくるものがありました。
評価8点。
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