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『夜空に夜空に泳ぐチョコレートグラミー』 町田そのこ (新潮社)2017.10.28 Saturday
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繊細さと力強さは余程の筆力がなければ相伴わないものであるというのが私の持論であるけれど、自分の作品の世界を構築し終えているレベルに達していると思わざるを得ないのだ。
全5編からなる連作短編集であるけれど、それぞれの編にドラマが満ちています。どの編の人物もまさに崖っぷち状態であってそれをどのように打開していくのかが楽しみでもありますが、何よりも主要人物であるサチコと啓太の生きざまには肩入れしてしまいます。彼女たちの壮絶な人生を堪能するのが本作を読む行為イコールということであります。
冒頭の差し歯が外れたエピソードが秀逸で物語全体に深みを与えています。私はサチコと啓太は恋人同志かなと思いましたが実は親子でした。彼らは一見愛に飢えているように見受けられますが、実は愛に満ち溢れています。それを理解できるのは読み終えたからでありますが、。どのように繋がって行くのかを体感出来るのが読み進めて行く上での楽しみであると感じます。
とりわけ人と接するのが苦手で不器用な人生を歩んでいる自覚している読者が読めば、自分と同様あるいはそれ以上に不器用な人に邂逅し、少しずつですが自分の人生を切り開いて行こうと感じるのでしょう。感動的でもあり実益的でもある本作、是非手に取って欲しいですし、次作以降の作者の期待はとっても大きいものとなりました。
評価9点。
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『ニュータウンクロニクル』 中澤日菜子 (ポプラ社)2017.10.28 Saturday
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作者は人生というよりも人間の一生における変化を高度成長時代の象徴のひとつであるニュータウンを取り上げて、登場する人たちの人生に彩を添えている。
この物語は全6章からなり、最初は1971年から最後は未来にあたる2021年で終わるのであるが、子供や高校生だった頃の人物が変化を遂げてゆく様が読者にとって心地よい。
いずれもが幸せな人生であったとは言い難いけれど、各時代の世相を反映したシーンを織り交ぜつつ読ませてくれる。
二章目で出てくる風変わりな転校生の正江、三章目のバブルの時代に若い男に貢ぐ陽子などが印象的であるが、主人公格である公務員の健児がニュータウンの栄枯盛衰を理解しつつも誇りを持っている姿が終盤貫かれているところが良く、本を閉じた時にじーんとくるのが心地よい。
重松氏のように踏み込みが深くなく泣けるような話ではないけれど、サラッとリアリティのある話は読者の背中を押してくれ懐かしい気持ちに浸れる。是非コンプリートしたい作家のひとりとなった。
評価8点。
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『太郎とさくら』 小野寺史宜 (ポプラ社)2017.10.20 Friday
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タイトル名となっている太郎とさくら、2人の関係は異父姉弟で血が半分繋がっている状態であります。
この2人の実の姉弟に勝る愛情を示した作品と言えばありきたりですが、小野寺さんらしい味付けがされていて本当に癒される作品と言えます。
冒頭のさくらの結婚式に、さくらの産みの親である野口さんが登場、その野口さんと太郎、いわば血の繋がりのない二人の関わり合いが周りを変化させるのですが、本当に読んでいて心地良くふわっと包まれたような気持にさせられます。
現実的にこのような話(姉の実の父親と太郎とが同居する)はありえないのでしょうが、やはり太郎の人柄が小説内でとはいえ読者にも伝わっていくのでしょう。当初は野口と関わることはやめておいた方が良いと思ってイライラしましたが、関わることによって世界を切り開いて行くことに成功します。
もちろん、彼女(紗由)との別れなど辛いこともありますが、それも太郎にとっては成長ということになるのでしょう、読者にとっては姉と弟の愛情が伝わることにより癒された読書となったことは否定できません。
評価8点
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