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評価:
宇江佐 真理
文藝春秋
¥ 551
(2000-04-01)
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“主人公は髪結い床(店舗)を持たない廻り髪結いの町人・伊三次(いさじ)で、北町奉行所同心・不破友之進(ふわ とものしん)の小者としての裏の顔を持つ。芸者の恋人・お文(おぶん)と所帯を持って髪結い床を持つ夢を叶えるため、仕事に励みながら、小者として様々な事件の解決の糸口を見つけていく。”(ウィキより引用)
早いもので作者の宇江佐さんが亡くなられて早や二年が過ぎ去りました。デビュー作であり直木賞候補作であった本作を改めて読むと、思い出のアルバムをめくっているような感覚となる。本作が出て既に20年の日々が過ぎ去り、直木賞候補として6度ノミネートされ(歴代トップタイの回数)、惜しくも直木賞の受賞は叶わなかったけれど、亡くなる直前まで上梓を重ねられ都合67作品(内髪結いシリーズは16作品)私たち読者を楽しませてくれました。各作品のクオリティの高さは個人的には藤沢周平のそれに匹敵するものだと思っています。思うに作者も直木賞を受賞されなかった悔しさをばねとして頑張ってこられたように思うのである。
本作が時代小説全体に残した功績は甚大であると思います。それは読者層も含めて数年前の“みをつくしシリーズ”にも繋がっていると思います。一番の特長はどちらも市井物でありチャンバラ(武術)シーンがないことが上げられると思われます。
みをつくしシリーズは完全に主人公に読者が乗り移って読み進め、感情移入する作品として成功しましたが、本作は主人公の伊三次だけでなく恋人役(のちに妻となります)お文(おぶん)をはじめとするサブキャラクターが伊三次以上に魅力にあふれている点で、各編主人公が変って行き読者を楽しませてくれます。
作者は、「(このシリーズは)編集者がもう要らぬと言わない限り、書かせていただくつもりである」「伊三次とともに現れた小説家なので、伊三次とともに自分の幕引きもしたいと考えている」と述べているほどで、いわば作者のライフワーク的作品とも言え、登場人物の成長や変化が作者だけでなく読者の変化をも気づかせてくれるところが凄いなと読み返しながら強く感じました。
シリーズ序盤は共に25歳の伊三次とお文の恋模様が気になりますが、基本的には恋だけでなく泣けて笑えます。
とりわけお文のキャラが素晴らしく、そのいじらしさは圧巻で可愛く思わない男はいないと思いますし、シリーズの成功の最大のポイントとなっているのでしょう。
ディープな宇江佐ファンなら他の作者の作品の女性と比べてみて楽しむこともできるでしょう。
気風の良い江戸っ子言葉が再読しても印象的であり、天国にいる作者とお文を重ね合わせて読むと本当に目頭が熱くなる読書となりました。
少しずつ再読して、何年たっても読み継がれて行けるように少しでも尽力したいと思っています。
評価9点