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『オブリヴィオン』 遠田潤子 (光文社)2018.03.10 Saturday
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個人的には隣に住んでいてバンドネオンを演奏する沙羅や実母を戸籍上の父親(森二)に殺され不安な毎日を過ごす冬香など本当に魅力的な人物、言い換えれば幸せをつかんでほしいなと思わずにいられない人たちにため息が出ます。 ミステリー度も高く、主なところで言えば冬香の本当の父親は誰なのかという疑問を持って読まれた方が大半だと思いますが、終盤の怒涛の展開、兄弟愛に満ちたシーンや森二が沙羅に取ろうとする行動などジーンとくるシーンが待ち受けていますが、何はともあれ私たち読者は彼らが前を向いて生きていく姿に胸を打たれます。
森二は愛する唯を死に至らしめましたが、その事件も人生をやり直そうと思っていた時期のことであったこと、夫婦の愛情は本物であったと思いますし、これからもわずかですが希望をもって生きていくのでしょう。とにかく作者の熱量に圧倒された読書となりました。タイトル名ともなっているオブリヴィオンですが、忘却と赦しという意味で主人公の生きざまを表しています。絶望的な人生でもわずかな希望をもって生きてゆく、応援したいものです。
評価9点
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『君が夏を走らせる』 瀬尾まいこ (新潮社)2018.03.09 Friday
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「あと少し〜」では独自の存在感を見せつけた太田君ですが、高校生となり以前のように自堕落な生活を過ごしていましたが、作者は彼に命題を与え再生を促します。
その命題とは同じ高校の二年先輩ですが中退して子供を儲けている中武先輩の1歳10か月の娘である鈴香ちゃんの子守りでした。
瀬尾作品の定石通りであるのほほんとした文章と予定調和的な展開が繰り広げられます。そう初めは嫌がっている鈴香ちゃんに悪戦苦闘する太田君ですが、徐々にバイトを忘れてかけがえのないものとなってゆきます。その姿が読んでいて情景が浮かび上がり、読者として微笑ましいことこの上なしであります。
あとサプライズとなった中学の上原先生の登場と3kmのタイムトライアルも印象的ですが、やはりママ友と仲良くなっていくコミュニケーション能力の高さは彼の天性のものだと感じます。
お互いの両親とは絶縁状態で頼めなかったとはいえ、思えば先輩が太田君に目を付けたのは人を見る目があったのでしょう。
鈴香ちゃんとの別れを名残惜しく読んだ読者は太田君の確かな成長を見届けれたことを誇りに思って本を閉じたはずであろうし、現に私は鈴香が太田君に懐くシーンが一番脳裏に焼き付いて離れませんでした。
太田君のその後を是非読みたいものです。
評価9点
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『いつまでも白い羽根』 藤岡陽子 (光文社文庫)2018.03.03 Saturday
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その成長の過程として脇を固めるユニークな登場人物達との邂逅が非常に強く、彼ら(彼女ら)も瑠美の影響を多大に受けて成長してゆく様が清々しさを超えて感動的である。 とりわけ感動的なのは親友役の千夏の存在で、そそっかしいけれど楽観的な考えで生きていた彼女が終盤に瑠美の正義感が乗り移ったかのような行動は意外でもありましたがそれ以上に圧巻でした。医療関係に携わる人の実態の凄さが露呈された形でもあるけれどやはり世の中は理不尽なことだらけなのでしょうか。
主婦ながら看護学校に通う佐伯や謎の美女遠野、素敵な恋愛模様を演出してくれる男子学生二人、彼らの人生もドラマティックです。 作者自身が看護学校を経験していて現在でも看護師として活躍していると聞きますが、近作を読むとまるで約10年前に書かれたであろう本作の主人公の意思を引き継いでいるようにも感じられます。 私たち読者も時には温かく時には厳しいまなざしで物事にブレずに対処してゆきたい。それは瑠美いや作者の願いであるはずである。
評価8点
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