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『春秋の檻 獄医立花登手控え  戞‘B周平 (講談社文庫)
藤沢先生が亡くなられて今年で20年となるが、読み返してみると文章そのものは全然風化されていないことに気づく。

やはりこの人はずっと読み継がれていく作家なのだなと感慨もひとしおの読書となった。これからもずっと時代小説を書かれている作家達の目標となっていくのでしょう。

さて本作ですが、青春恋愛小説としても読ませますしミステリーとしても読ませます。舞台は江戸小伝馬町の監獄。
医者を志し、叔父を頼って羽後亀田藩より上京してきた立花登が主人公。
登は物語が始まった時には22歳、居候の身で肩身の狭い登は半ば強制的に叔父より獄医をさせられている。


藤沢作品の中ではミステリー度合いが高いような気がする。
なにせ舞台が獄中。なにせ相手は犯罪者。
でも藤沢さんの眼差しは暖かいですね。
内容的には人情と恋愛を交えた青春小説といったところでしょうか。

ポイントとなるのは主人公の登が剣術じゃなくて柔術(起倒流)の使い手であるということ。
これは前者だとやはり相手を斬ったりすることが起こるので敢えて柔術にしているのであろう。
主人公の人柄と凄く合っています。
でもこの登って好奇心旺盛なのですね。あとは全四冊の中でおちえとの仲がどう変化してゆくか、再読で読んでみても胸の高まりを抑えるのに必死です(笑)

ご存知の方も多いでしょうが、昨年NHKでリメイクドラマが放送されましたが、もうすぐその第二弾が始まります。
オリジナル版の放送が1982年ということで35年の日々が流れたけれど、主演の中井貴一の初々しい演技が今でも印象的である。
当時おちえ役だった宮崎美子がリメイク版で叔母役を演じているのは時の流れを感じるけれど、藤沢ファンの読者にとってはずっと藤沢作品に浸れる幸せをあらためて感じとられた方も多いのではないかと思われます。

評価9点
posted by: トラキチ | 藤沢周平 | 09:09 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『この世にたやすい仕事はない』 津村記久子 (日本経済新聞社)
評価:
津村 記久子
日本経済新聞出版社
¥ 1,728
(2015-10-16)

初出 日本経済新聞電子版。日経新聞に津村さんの小説と来れば、まさにお仕事小説の決定版と思われる方が大半だと思われますが、本作は半分当たっていて半分外れているというのが解答のような作品だと言える。
バリバリと働くOLが対象ではありません。燃え尽き症候群によりある職を辞した三十代半ばの女性が、風変わりというか読者がこんな仕事あったのかと思われるような仕事をこなすことによって自分らしさを取り戻して行く過程が読ませどころの作品ですが、それは通常の津村作品の定番ともいえる、個性的なれど等身大的なキャラの人物を描いているのではなくて、普通よりも悪く言えば精神的に弱いキャラの人物を描いている点が目新しく感じる。

それによりタイトル名ともなっている、“この世にたやすい仕事はない”という言葉がじーんと読者に伝わてくるような気がして、読者の常日頃持っている“労働観”が覆ったり、あるいは大きく変わったりするところが本作の一番魅力とも言えそうです。
基本的には、主人公が少なくとも全力かつ真面目にそれぞれの仕事に取り組んでいく姿を少しでも吸収して読むべき作品のように決定づけたいと思っている。

相談員でもある正門さんがとってもユニークであり、本作を読むきっかけともなったNHKでのドラマ化でどのように描かれているか楽しみである。

評価7点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 19:30 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『美しい距離』 山崎ナオコーラ (文藝春秋)
評価:
山崎 ナオコーラ
文藝春秋
¥ 1,458
(2016-07-11)

初出「文學界」。島静恋愛文学賞受賞作品であるが、恋愛小説というよりも夫婦小説と言った方が良さそうでいろいろなことを考えさせてくれるという作品であると言える。
老年期に入ってどちらかが癌に侵される夫婦は数多いであろうけれど、本作では侵されるのが40代の妻である点と夫婦の間に子供がいないという点が少し変わったシチュエーションだと言えます。
タイトル名となっている″距離”という言葉を念頭に置いて読むと色んな事を考えさせられ、読者自身の身の回りのことも想像された方も多いであろう。

語り手である夫は仕事をもセーブし、余命短い妻の介護に献身的になります。ある時は妻の母親や妻の仕事関係の人と距離を保ちながらというか、妻と自分以外の人との距離を調整してあげているようにも感じられます。
その妻を大切に思う気持ちが穏やかに書かれているのですが、その奥底に潜む葛藤している気持ちが読んでいて見え隠れします。妻サイドの痛みや苦しみはほとんど描かれてないだけに、逆にまだ若すぎるという気持ちが強く伝わって来ました。

そして娘に先立たれた義母の悲しみも伝わって来ます。現実はもっと生々しい話になるのでしょうが、落ち着け落ち着けと作者から教えられた気持です。読者にとって自分自身の夫婦関係の根本的な見直しや、自分の身の廻りの近い将来も含めての介護問題を見つめ直す指針となる一冊だと言えそうですね。

評価8点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 22:01 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『あたらしい名前』 ノヴァイオレット・ブラワヨ (早川書房)
評価:
ノヴァイオレット ブラワヨ
早川書房
¥ 2,376
(2016-07-22)

原題"We Need New Names"私たち読者の大半はジンバブエという国の名は知っていても、アフリカのどのあ
たりにジンバブエという国があることを知らないでいる。
本作は私にとって、アフリカを題材とした文学の登竜門として凄く響く作品となった。本作はブッカー賞の最終候補ともなっていて、作者のブラワヨは本作において読者に訴えかける内容は祖国への愛情に満ちている。
そして特筆すべきは訳者の谷崎由依さんの少女の気持ちを汲み取った繊細かつ軽妙な語り口の翻訳文。
内容的には前半が祖国ジンバブエでの出来事、そして後半が叔母を頼りにアメリカに旅立った主人公ダーリンが語られます。
大半の読者は、前半の過酷な環境の中での苦しい生活のなかでの主人公の方が生き生きと感じられたはずである。
それはジンバブエというアフリカの一国の貧困という現実もさることながら、アメリカ社会で軽く扱われるアフリカ人たちの貧困以外の苦しみの現実の方がより辛いのかと思わずにいられない。
作者の自伝的要素もあるみたいであるけれど、自分の祖国を捨ててアメリカで生きていけない主人公が健気に感じられ胸が締め付けられました。

評価8点

posted by: トラキチ | 翻訳本感想 | 22:33 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『騎士団長殺し :第2部 遷ろうメタファー編』 村上春樹 (新潮社)
たとえ多くの批判的な感想があってもそれは人気作家であるがゆえのことであると私たち読者は知っている。しかしながら数多くのハルキスト(もしくはハルキストではなくても)村上作品を必ず読む読者にとっては、村上作品はこうであってほしいという理想というか観念というのがあって、いみじくも本作のイデアみたいで失笑を買いそうであるが、言い換えれば読者にとっては自分自身の文学IQを計る指標というべき作品であると考える。
文体はたとえ比喩的表現が多くとも読みやすいけれど、内容自体はお得意の海外文学への造詣や車や音楽への蘊蓄など、沢山のことを盛り込んでいてややもすればエピソードが多すぎて消化不良を起こしがちであるが、一読者としてはその中の良い部分を吸収すれば良いと考えます。あまり欲張ってはいけません(笑)

個人的には、読者に自分自身を見つめ直す機会を提供していると考えたい。すなわち人生そのものを肯定している作品であると考える。
とりわけ親子愛について考えさせられる部分が大きかったように思える。免色からまりえ、そして私から夢で作ったと描かれている女の子ですね。どちらも本当の子かどうかわからないけれどそう信じ切っているように描かれているところが清々しくもあります。
あとは陰の主人公とも言えそうな騎士団長の存在は大きいですね。彼が絵の世界から登場するにあたっての絵の描写も素晴らしいし、私やまりえを励ます会話も楽しめます
また、彼の最期なんか本作において最も感動的なシーンだった読者も多かったと思いますし、会話で多用される″あらない”という独特の言い回し、読んでいて英訳される時にどう表現されるのかなと思ったり。そう思えるだけで母国語で読める幸せも感じます。そして世界の数多くの人々と村上作品をそして平和を分かち合いたいと願っています。

評価8点
posted by: トラキチ | 村上春樹 | 23:25 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『騎士団長殺し :第1部 顕れるイデア編』 村上春樹 (新潮社)
良くも悪くも作者の新しい挑戦ということではなく、過去の産物というか私たちが知っている村上春樹創作活動の集大成的作品であると言える。
村上長編作品が発売される年は、ハルキストはもちろんのこと出版業界自体が活況を帯びいわば特別な年、まるでオリンピックイヤーのような雰囲気が漂っていると言っても言い過ぎではないのであろう、少なくとも『海辺のカフカ』以来は。

喪失感が漂った内容はお手の物で、主人公である画家になり切って読むことが楽しいのであるが、免色と私とはいずれ敵対するのか否か、秋川まりえの真相は、そして妻とのその後は、騎士団長との関係はどうなるのか、鈴の真相はどうなのか様々なミステリアスで興味深い事柄がどう展開されるのか、この辺りの読ませるところはさすがと言っていいのではないでしょうか。
個人的には亡き妹を想う私の姿が感動的かつ印象的で主人公に肩入れしてしまいます、どうか着地点が満足のいくものでありますようにと願って第二部に入ります。
posted by: トラキチ | 村上春樹 | 21:15 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『屋根裏の仏さま』ジュリー・オオツカ/岩本正恵・小竹由美子訳、新潮社
 原題“The Buddha in the Attic"岩本正恵・小竹由美子訳。日系人作家によるフィクションでありながら歴史の教科書では教えてくれない大切なことを教えてくれる一冊。

出だしの“船のわたしたちは、ほとんどが処女だった。”という言葉にはハッとさせられたが、読み終えてそれ以上に驚いたのは綿密な下調べを経て書かれたいわば作者の魂のこもった作品であるということである。
20世紀初頭、夫となる男の写真を携え期待に胸を膨らませて渡米した日本の若い娘さんたちが、到着するや否や写真通りじゃなく期待を裏切られながらもほとんどの人が順応して生きて行きますが、戦争という個人ではどうしようもないものに人生を妨げられてゆきます。

抗いがたい理不尽なことに対するやるせなさを淡々と描く作者、これは訳者の日本語力の高さのおかげかもしれませんが、本作には私たち読者に対して尽力を注いでくれた瑞々しい訳文が魅力の岩本さんが志半ばで亡くなられた形だったのですが、アリスマンローの訳者でお馴染みの小竹さんが後を継いで見事なコラボ翻訳を完成させているところも一つのドラマとなっています。

書き忘れてましたが、本作では主語が”わたしたち”という一人称複数の言葉で統一されていて、終盤以外は渡米した女の子ひとりひとりを指していて、作者の意図するところを本当に汲み取ったと感じます。個人的には”わたしたち”の中に性別問わず読者をも参加して歴史を共に体感することによってより深みのある読書体験を満喫してほしいなと思ったりします。

評価9点。
posted by: トラキチ | 新潮クレスト・ブックス(感想) | 10:49 | comments(0) | trackbacks(0) |-
2月読了本
2017年2月の読書メーター
読んだ本の数:7冊
読んだページ数:2424ページ
ナイス数:933ナイス

サロメサロメ感想
初出オール讀物。作者得意のアート系ミステリーであるが従来の作品群よりも読者との距離感が近いように感じる。というのはアート作品に対するリスペクトよりも、小説の内容が表紙ともなっているサロメの挿絵にどのように肉薄しているかということに主眼を置いて読んだら楽しめるのかもしれない。やはり知名度では一番高いオスカー・ワイルドの変わっているのだけれどやはり時代の寵児であったということを見事にあぶり出しているところが読み応えのあるところであろう。

読了日:2月28日 著者:原田マハ
蜜蜂と遠雷蜜蜂と遠雷感想
直木賞受賞作品。作者の良い部分が堪能できる渾身の青春群像劇であり、作者の代表作として永年語り継がれるべく作品であると感じる。 キャリアの長い作者は独自の恩田ワールドと呼ぶべく作品群を展開しているが、敢えて悪く書かせていただければ風呂敷を広げ過ぎて上手く伏線が回収されていなかったり、幕切れが中途半端であったりとした作品もあったのだけれどそれらを払拭するべく本作は満を持して発売されたと思われる(→続く)
読了日:2月23日 著者:恩田陸
ロゴスの市 (文芸書)ロゴスの市 (文芸書)感想
再読。ビブリアバトル発表用に再読したのであるが、タイムリーなことに島清恋愛文学賞を受賞されたことはファンの一人として喜びこの上ないことである。 ちょうど一年ぶりの再読であったので、おおまかな内容は覚えているものの、初読み時と変わらないぐらいの新鮮な読書に酔いしれることが出来たのは、作品の持つ奥の深さ所以かと感じる。 今回は悠子の心の動きにスポットを当てて読んだけれど、読めば読むほど魅力的に感じた。主人公の弘之が惚れるのも無理のないところであろうか。
読了日:2月14日 著者:乙川優三郎
松田さんの181日松田さんの181日感想
オール讀物新人賞を受賞した表題作を含む6編からなる短編集で初読み作家です。人間というものの奥深さをよく観察し丹念に描いているといった印象で文章も読みやすい作家さんです。 表題作とラストが登場人物も繋がっていて(脚本家の寺ちゃんが出ます)どちらも余命短い人と周囲の人との暖かい繋がりを描いていて感動的な作品となっています。この作家の只者ではないところはそれ以外の4編も読ませるところだと感じます。夢を見ることと現実を見ることの大切さを謳っています。
読了日:2月13日 著者:平岡陽明
サラバ! 下サラバ! 下感想
下巻においては今まで我関せずを貫いていた歩に大きな変化が襲ってきます。阪神大震災やサリン事件、そして東北大震災などの実在にあった出来事を織り込んでいるところがタイトル名の意味合いも含めてメッセージ性の強いものとなっています。 圷家の崩壊と再生の話が展開されるのですが何といっても姉の再生が読者にとってはサプライズで、そう来たかと思われた読者も多かったのではないでしょうか。そして歩の外見の劣化をも含めた脱落してゆく姿が読者にとっても痛々しいのですが姉弟のいわば逆転現象がとりようによっては爽快ともとれます。
読了日:2月10日 著者:西加奈子
サラバ! 上サラバ! 上感想
上巻では主人公である圷歩の誕生から高校生時代までが描かれる。舞台はイラン→日本→エジプト→日本と変ってゆくのであるが歩を取り巻く個性的な家族が圧巻である。とりわけ娘のまま母親になったような母とわがままこの上ない妹との関係が控えめで謙虚な歩にとっては大変であっても読者にとっては歯がゆくも面白くもあります。 作者の特徴でもある繊細さと力強さを併せ持った作品であるところは間違いのないところであろうが、読み進めていくうちに読者は歩ほど波乱万丈ではないにしても、自分自身の過去を振り返ることを余儀なくされます。
読了日:2月8日 著者:西加奈子
テミスの求刑テミスの求刑感想
WOWOWでドラマ化された作品で作者初読みです。警官であった父親が殺害された過去を持つ検察事務官の星利菜が主人公で彼女の目線が多少ふら付いたところがあるのが気になる読書となった。但し重厚感のある話ではないのでスラスラと読めるのも間違いのないところ。彼女に対する読者の感じ方が大きく読後感に関わってくるとも言えるのであるが、逆に脇を固める個性的な検事や弁護士たちに対して振り回されているようでにも感じられる。というのも主人公にはどうしても父親の死という辛い過去があるにも関わらずその悲壮感が漂ってこないのだ。
読了日:2月2日 著者:大門剛明

読書メーター
posted by: トラキチ | 月刊読了本&予定本 | 07:14 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『サロメ』 原田マハ (文藝春秋)
評価:
原田 マハ
文藝春秋
¥ 1,512
(2017-01-16)

初出オール讀物。作者得意のアート系ミステリーであるが従来の作品群よりも読者との距離感が近いように感じる。というのはアート作品に対するリスペクトよりも、小説の内容が表紙ともなっているサロメの挿絵にどのように肉薄しているかということに主眼を置いて読んだら楽しめるのかもしれない。やはり知名度では一番高いオスカー・ワイルドの変わっているのだけれどやはり時代の寵児であったということを見事にあぶり出しているところが読み応えのあるところであろう。

物語はサロメの挿絵を描いたが病弱の為に25歳で早死にするオーブリー・ビアスリーとワイルドとの関係を姉のメイベルが語るという方法であるが、途中でワイルドの恋人(男ですが)アルフレッド・ダグラスが登場してからよりドロドロ度というか愛憎ぶりがヒートアップしてきます。
読めばわかるのですが、当初事情があってフランスで発売された『サロメ』、その英語版の翻訳をワイルドから頼まれるところが本作の奥深い部分へのスタート地点であります。

あとはやはりメイベルの嫉妬深さと野望ですよね。果たして弟に対してどれほどの愛情があったのか、単に利用しただけともとれないこともないところが女性の怖さともとれないことはありません。
当時のロンドンとパリとの違いも読者にとっては興味深く、ワイルドの苦しかった晩年を見ると決して充実した人生でもなかったようにも感じられました。作者の史実に基づいた作品を読むと、どこまで本当なのかという気持ちが常にあるのですが、本作に関しては本当であって欲しくないという部分もあり、そう思う気持ちが本作の魅力であり表紙に直結しているのかと感じます。

評価8点。
posted by: トラキチ | 原田マハ | 20:57 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『蜂蜜と遠雷』 恩田陸 (幻冬舎)
直木賞受賞作品。作者の良い部分が堪能できる渾身の青春群像劇であり、作者の代表作として永年語り継がれるべく作品であると感じる。
キャリアの長い作者は独自の恩田ワールドと呼ぶべく作品群を展開しているが、敢えて悪く書かせていただければ風呂敷を広げ過ぎて上手く伏線が回収されていなかったり、幕切れが中途半端であったりとした作品もあったのだけれどそれらを払拭するべく本作は満を持して発売されたと思われる。

わずか10日間ほどのピアノコンクールの世界が描かれているのだけれど、まさに作者の独壇場であり主要登場人物が生き生きと描かれているところが読者に伝わって来て、序盤であれどクライマックス的な描写が後を絶たなくてハイテンションな気持ちを持って読み進めることを余儀なくされる。

文字だけで臨場感をこれだけ出せるとは、まるで読者を映像の世界に連れて行ってくれると言えば言い過ぎでしょうか。
序盤はギフトという言葉に焦点を当てて読んでいたけれど、四人のメイン演奏者の個性が魅力的過ぎてそういうことも忘れました。
そして一次→二次→三次→本線と勝ち進んでいかなければならないので余計にハラハラドキドキします。女性読者にしたらマサルと塵のカッコ良さや亜夜を自分に置き換えたりして読むことが楽しめるのだろうし、男性読者、とりわけ中高年の読者は天才肌の3人よりもどちらかと言えば努力型の明石を応援して読まれた方も多かったのかもしれない、ちなみに私は明石派です(笑)あとはサイドストーリーとして離婚した審査員側のふたりとかの話も面白くてこの作品の魅力を語れば枚挙にいとまがありません。

最後に本当に素晴らしいのは作者の描写力の凄さで、これはコンクールの結果が分かっていても再読してその世界に浸りたいと思われた方も多いと思われます。それは作者が読者の背中を押して励ましてくれているようにも感じられました。まるで登場人物たちが相互的に背中を押しあっているのと同様に思われます。

評価9点。
posted by: トラキチ | 恩田陸 | 17:11 | comments(0) | trackbacks(0) |-