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『想い雲 みをつくし料理帖』 高田郁 (ハルキ文庫)
シリーズ第三弾。このシリーズを読むと作中の料理だけでなく展開までもがそのさじ加減が読者にとって絶妙であると感じます。

まずは行方不明中の佐兵衛に情報が出ますが、それにしても富三って腹立たしいですよね。他の人物が基本善人ばかりだから目立ちます。あとは各編に最低一編出てくる野江がらみの話も見逃せません。
?作者はつる屋に様々な試練を与えます。途中食中毒事件にはハラハラしましたがそれらを乗り越えることによって澪だけでなく登場人物一人一人が成長してゆくのでしょう。りうさんの再登場も心が和みます。

最も印象深いのはふきと健坊姉弟の話ですが、それ以外にも意地らしい美緒の存在感も物語に彩を添えていますが、やはり読者にとっては澪が小松原を想う気持ちが心の中に閉じ込められているところがもどかしくもありますが、彼女の前向きに生きるエネルギーになっていると信じて本を閉じました。

評価9点
posted by: トラキチ | 高田郁 | 21:03 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『罪の余白』 芦沢央 (角川文庫)
評価:
芦沢 央
KADOKAWA/角川書店
¥ 648
(2015-04-25)

作者初読みです。スクールカースト制と言って良いのでしょう、そのイジメが原因で若き命を絶った女子高生。彼女の父親で娘を溺愛してた心理学者の安藤と彼女を死に追いやった女子高生二人(咲と真帆)とのそれぞれの心の動きが語られて行きます。父親の怒りと苦悩、そして女子高生の自分たちの保身が交互に描かれるのですが、最後まで緊迫感が途切れることがありません。

キーパーソンとなってくるのが安藤の同僚でもあり彼の世話をする早苗でしょうか。コミュニケーション障害がある彼女の視点のパートが本作をより深みのある作品としていることは明白であり、ラストのサプライズにも繫がります。母親が自分の命を捨ててまで生んだという設定は男手ひとつで育てたという加奈に対する愛情の深さと共に、早苗という存在をより際立たせるための計らいであったと感じます。それにしても咲の自分自身を守るために取った陰湿な行動は想像を絶するほどで許しがたいですよね。女性作家ならではの繊細さと力強さを併せ持ったセンセーショナルな作品だと思います。

読者サイドからすると、やはり加奈や真帆が咲からなぜ離れられなかったのだろうかという疑念が残りますが、これは当事者にとっては難しい問題なのでしょう。
本作読了後、映画化されたDVDを鑑賞しましたが楽しめました。咲役の吉本実憂の悪魔ぶりが原作顔負けで印象的でした。次期朝ドラ主役の葵わかなも脇役ですが出ています。

評価7点。
posted by: トラキチ | 現代小説(国内) | 10:52 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『鮪立の海』 熊谷達也 (文藝春秋)
評価:
熊谷 達也
文藝春秋
¥ 2,106
(2017-03-28)

作者のライフワーク的作品と言って過言ではない、気仙沼をモデルとした仙河海シリーズの最新作。
時代は昭和初期〜戦後と時系列的には前作にあたる「浜の甚兵衛」のあとであり、前作を読んでないのは残念であったけれど、名船頭であった父や兄を目標として生きる主人公の菊田守一が成長してゆく姿は読む者の心を和ませること請け合い。
海の男というロマンを感じさせる作品であることは当たり前であるけれど、作者の特徴とも言うべき繊細な男心の描写が売り物の作品であるともいえ、甚兵衛の妾の子として登場する征治郎との友情や真知子との恋の行方など恋愛青春小説として読んでもそのほろずっぱさは一級品であると言える。
 ちなみに仙河海サーガシリーズを備忘録的に記すと下記の通りとなります。
出版社の垣根を乗り越えて書かれていますし、登場人物に関連性のあるものとそうでないものがあります。
『リアスの子』 光文社

 『微睡みの海』 角川書店

 『ティーンズ・エッジ・ロックンロール』 実業之日本社

 『潮の音、空の青、海の詩』 NHK出版

 『希望の海 仙河海叙景』 集英社

 『揺らぐ街』 光文社

 『浜の甚兵衛』 講談社

 『鮪立の海』 文藝春秋

評価8点。
posted by: トラキチ | 熊谷達也 | 21:12 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『星がひとつほしいとの祈り』 原田マハ (実業之日本社文庫)
どうしても長編作家というイメージが付きまとう作者であるけれど、短編もなかなか読ませることを体感できる作品集。
旅好きの作者を反映したように全国津々浦々の地方が描かれます。
主役はすべて女性であって年齢層も20〜50代、読者を意識した作りとなっていると言って良いのでしょうか。
様々な困難や苦労に出会ってそれに向かって行く姿が描かれていて読者の背中を押してくれます。

特に印象的なのは30代のの売れっ子コピーライターが、四国のホテルで呼んだマッサージの老女から戦時中の悲しい話を聞かされる表題作と一年前に夫を癌で亡くした50代の女性が、かつて夫と一緒に旅した長良川を娘とその婚約者と共に訪れる「長良川」あたりでしょうか。
いずれにしても、人生の各年代において抱えているものを描いていて切ないながらも清々しくあるのは作者の良いところだと感じます。たまに短編集を読むのもいいものです。

評価8点。
posted by: トラキチ | 原田マハ | 20:24 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『手のひらの音符』 藤岡陽子 (新潮文庫)
再読。作者は新刊が出るたびに手に取りたい作家の一人の代表作とも言える作品であり、初めて読まれる方にはこの作品を紹介している。
新聞記者の経験や看護師の資格を持っている作者は誠実に人間観察をし端正な文章に転換し、必ず読者に考えさせる機会を与えてくれる作品を提供してくれるということがあげられる。

本作は作者の5作目として新潮社から2014年1月に書下ろし作品として上梓され、その後2016年9月に文庫化され今回再読をした。
本作以降も、歴史小説をやタイムスリップ小説も含めて守備範囲の広さを読者に提供してくれているが、どの作品にも生きることの意義を問う部分が繊細かつ力強く読者に訴えかけるところが大いなる魅力であると言える。

タイトル名となっている『手のひらの音符』の“音符”という言葉がとっても示唆的な含みのある言葉だと考えます。笑顔、生きがい、夢、希望、愛、人生、青春、あるいは現実、いろんな意味合いが込められていて読者それぞれが当てはめる言葉が違って然りの。

主人公である水樹は45歳独身の服飾デザイナーであるが、会社の経営方針で転職を余儀なくされそうな状況であるのだが、貧しかった子供時代に共に生きた幼なじみの信也と音信不通になったままでいる。
恩師の病気をきっかけとして現在と過去を交錯させつつ語られていくストーリーと言えば簡単ですが、彼女ら(彼ら)を取り巻く家族、兄弟、友人、そして恩師たちの存在がとてつもなく大きいのですね。
信也以外にも憲吾という同級生も登場、彼の存在感も絶大であって主人公にとっては人生は信也の方、仕事は憲吾の方に影響を受けたと言っても過言ではないともいえましょう。
圧巻は信也の兄と弟、3兄弟の話です。彼らの兄弟愛には胸を打たれますし、あとは恩師の遠子先生の生徒たちに与えた影響の大きさも読ませどころですね、ラストもちょっとびっくりでしょうか。

本作は主人公の幼少期や学生時代、貧しかったり苦しかったりした場面が多いのが特徴で、そういった経験が主人公の岐路に立った今、前を向かせてくれる勇気を与えてくれているのでしょう。
ここで語るにはもっと奥が深いものがありますが、私は誠実に生きたものがちっぽけかもしれないけど幸せを掴むのであるというメッセージを作者から受け取りました。
、主要登場人物のそれぞれのいろんな誠実さが溢れた本作、ある一定の年齢以上の方(40歳ぐらいかな)が読まれればは心に響き勇気づけられる物語であると確信しています。
posted by: トラキチ | 藤岡陽子 | 17:14 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『R.S.ヴィラセニョール』 乙川優三郎 (新潮社)
評価:
乙川 優三郎
新潮社
¥ 1,512
(2017-03-30)

初出 小説新潮。フィリピン人の父と日本人の母との間に生まれ房総半島で染色工房を営むレイの生き様が描かれている。彼女の人生はフィリピンから日本に出稼ぎに来た父親の影響が多大であって、フィリピンの過去の独裁的内情が克明に描かれている。
どちらかと言えば読後感として、ノンフィクション的事実に対する驚愕感がありすぎてフィリピン人に対する同情感が強まった読書となった。

本作を読めばやはり血というものの大きさを感じずにはいられない。父親の深い愛情を心に留めながらメスティソという運命を受け入れている主人公に背中を押された読者も多いはずである。
正直、フィリピンの歴史のただ乙川文学は時代物も含めてその長編は奥が深すぎて一度では消化しにくいので、機会があれば再読したなと思う。また新たな発見があるであろうから。

評価7点。
posted by: トラキチ | 乙川優三郎 | 17:09 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『花散らしの雨 みをつくし料理帖』 高田郁 (ハルキ文庫)
シリーズ第二弾。舞台を九段坂に変えてのつる家での奮闘が描かれる。このシリーズは表題作だけでなくどの話もクライマックス的な感動を呼ぶ作品であり、妥協や息抜きを読者に許さないところが評価を高めている要因であると思える。
第一弾に登場していなかったふき、清右衛門、りう、美緒が現れ今後どのようにお話にからんでくるのか。とりわけ下足番として雇われ密告をしたのにも関わらず、それを許した澪。今後ふきを澪が自分の過去と重ね合わせてどう成長させててゆくのか目が離せません。

印象的なのは清右衛門に店の裏に住み替えるように打診されていた澪が麻疹で倒れたおりょう親子を介抱するうちに裏店の人たちの家族同然の繋がりを感じ、そのまま住み続けることを決意したことでしょうか。
あとは全編に貫かれている澪の恋の予感の話ですね。小松原よりも源斉の方が合うのではないかと思われた読者も多いと思いますが、これは作者が納得の行く答えを出してくれると信じて読もうと思っています。
“私の恋は決して相手に悟られてはならない。”一緒に小松原と花火を見ながら語った健気な澪の言葉が本シリーズが大きな共感を得ている証とも言えると思います。

評価9点。



posted by: トラキチ | 高田郁 | 16:29 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『八朔の雪 みをつくし料理帖』 高田郁 (ハルキ文庫)
満を持してNHKでドラマ化が決定したご存知作者の代表シリーズの第一弾。
苦労をしながらも成功を収めるであろう一人の女性の奮闘記と言えば簡単であるが、作者特有の細やかな描写が読んでいて頗る楽しいことが本作の成功を象徴していることのように思える。

ヒロインの澪は下がり眉が特徴であり、幼なじみで美貌が持ち主の野江とは対照的であるところが女性読者のハートを掴むのでしょう。外見はともかくその性格というか何事にもくじけない気持ちが素晴らしいの一言に尽きます。

本作では主な登場人物が一通り登場し、澪が江戸に出てきたいきさつ(大坂での出来事)が読者に披露され、江戸のつる屋という蕎麦屋で奉公しているところから描かれます。その時澪は18歳でした。全4編のサブタイトルともなっている料理名が拵えられる過程もほっこりしていますが、如何に荒波を乗り越えつつ主人公が成長してゆくか、周りを取り囲む人たちとの温かいふれ合いを感じながら読み進めて行きたいと思います。

武士の小松原や医者の源斉との恋模様も楽しみですが、第一弾の後半では、軌道に乗ってきたつる屋が何者かによって火をつけられて屋台から再出発します。苦労に翻弄されつつも健気に生き、立ち向かって行く姿は見習わなければなりません。

評価9点。






posted by: トラキチ | 高田郁 | 19:29 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『風雪の檻 獄医立花登手控え ◆戞‘B周平 (文春文庫)
全五話からなります。本シリーズの特徴は各編毎に勃発する牢に入っている人を取り巻く事件を登が解決し人間模様が浮き彫りにされる点と登の成長及びおちえとの恋愛の進行状況を見守る点と読者にとってなんとも贅沢なシリーズとなっている。二巻目に入り、おちえと登との関係が少し密接になります。一巻目でおきゃんぶりを見せていたおちえがしおらしくなり、登とよんでいたのが登兄に代わりラストでは急展開が待っていてますます三巻目以降が気になります。
ただ二巻目では冒頭から親友である新谷弥助の急変が勃発します。具体的には道場に来ないようになり用心棒まがいのことをやっているということが判明します。

各話、それぞれに登が大活躍するのは同じですが、彼の心の底にはいつも弥助に対する心配の気持ちがあって、読み進めていくうちにそれが読者にも伝わってきます。
個人的には彼を巡る友情話がメインであると思え、彼に対する緊張した気持ちがラストでのおちえとのご褒美的なシーンに繋がっていると捉えればロマンティックさが増すようにも思います。
ラストの余韻がたまらない一冊となりました。次巻ではもっと叔父の家での肩身の狭さが改善されますように。

評価9点。
posted by: トラキチ | 藤沢周平 | 22:09 | comments(0) | trackbacks(0) |-
『出会いなおし』 森絵都 (文藝春秋)
評価:
森 絵都
文藝春秋
¥ 1,512
(2017-03-21)

初出「オール讀物」、6編からなる短編集。惜しくも大賞受賞はならなかったけれど本屋大賞第2位という高い評価を得た渾身の長編である『みかづき』の次の作品ということで注目された読者も多かったと思われるが、期待を裏切らないクオリティの非常に高い読者の胸に迫る作品集であると感じる。 女性読者にとって、本作のような作品集は心の琴線に触れ、背中を押してくれること請け合いだともいえる。 それは繊細かつ説得力のある変幻自在な内容及び題材を持って描かれていて、次の編はどうなのだろうかと期待を抱かずにいられず、身を委ねやすい作家の一人である作者の筆力の賜物である。

まるで処方箋のような作品集であり、読み終えたあとには背中を押してくれたり、肩が軽くなるのは作者の愛が詰まっている所以であると言える。 特に印象的なのは「カブとセロリの塩昆布サラダ」、デパートでカブと思って買ったサラダが実はダイコン、怯まずに立ち向かう主人公が痛快で、これは作者特有のこだわりが読者に伝わって来て励まされます。滑稽な話なんだけれど肝心なことは譲れないという主人公の気持ち伝わります。 自分の過去を振り返ることは自分の成長に不可欠であるということを噛み締めた方が多いと思います。

あと感動的なのはやはり「むすびめ」とラストの「青空」で、この2編は涙を誘うこと請け合いの傑作短編だと言える。 タイトル名ともなっている「出会いなおし」は本作のモチーフともなっていると捉えて読むと効果てきめんであり、私たち読者は後悔していることが多く、本作を読むことによって自己途上するきっかけとしたいですね。

評価9点。
posted by: トラキチ | 森絵都 | 19:33 | comments(0) | trackbacks(0) |-